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  抜海(JR北海道・宗谷本線)

1.駅舎(ホーム側から)

 

2.稚内方面をのぞむ

 

3.駅前通り(突き当たりに抜海駅が見える)

 

4.夕闇の中の利尻富士

【駅概略】

JR稚内駅から南へ2駅,14.4kmの地点にある駅。以前は駅員が配置されていたが,現在は日本最北の無人駅となっている。開業当時からの木造の駅舎が残り,2面2線の交換設備も現役である。駅前には数軒の民家しかないが,駅から日本海側へ2.5kmほど行ったところに比較的大きな集落と港があり,そこからの利用者がそれなりにいる模様。

 

【駅データ】

駅名

抜海(ばっかい)

所在地

北海道稚内市抜海村クトネベツ
駅周辺の地形図
へ(国土地理院提供)

開業

1924年6月25日(国鉄天塩北線として)

乗降客数

駅名のルーツ

パッカイ(子を背負う)からきている。集落は西方の海沿いにあり,地名の由来となった石を背負った抜海岩がある。

 

【停車本数データ】

1925年4月(天塩北線)

2往復

1944年12月

4往復

1956年12月

6往復

1968年12月

6.5往復

1987年4月

5往復

2005年10月

5往復

 

【訪問記】(2005年10月)

芦川駅跡徳満駅をレンタサイクルで訪問した後,豊富駅から普通列車に乗車。約30分後,夕闇迫る抜海駅に降り立った。

・・・・・・それにしても,また来てしまった。

抜海駅で降りるのはこれでもう3回目だ。何が嬉しくてそんなに何度も,と言われそうだが,良い駅は何回来ても良い。

それに夕方に降りるのは初めてだ。今までは夜行特急「利尻」で稚内まで乗り通したあと,始発の上り普通列車で折り返して訪問するというパターンばかりだった。しかも帰りの列車が30分後に来るものだからあまりゆっくり散策できなかった。今回は夕暮れ時の抜海駅をじっくり楽しもうと思う。

さて,列車を降りると,相変わらず味わい深い木造の駅舎が旅人を優しく出迎えてくれる。無味乾燥な貨車駅が多い宗谷本線にあって,いまや異色かつ貴重な存在である。いつまでもこのままであってほしいと心の底から思った。

お決まりとして,今から利尻富士を拝みに行こう。夕焼けともあいまってとても綺麗に違いない。日が暮れる前に何とか海岸まで到達できそうだ。・・・そんなことを考えながら,駅舎正面に出た。

と,ここで違和感に襲われる。なんと,駅舎正面側が補修され,白く塗られているではないか。これじゃ木造駅舎の味わいが台無しである。これはひどい。・・・・・・と一瞬思ったけれど,これぐらいの補修で木造駅舎が保存できるのなら文句は言えない。むしろ,こんな収益の望めない駅でも手入れしてくれるJR北海道に感謝しよう。・・・そんなことを考えながら,海に向かって歩き始めた。

と,ここで再び違和感に襲われる。今までなら駅前の民家に1匹の犬がいて,見知らぬ旅人をめざとく見つけては吠えかかってきたのだが,今日はいない。たかだか3回目の訪問で顔見知りになったとも思われない私が登場しても辺りはしーんと静まり返っている。

そもそも,もともと活気があったとは言えない駅前集落が今日はさらに寂しくなった気がする。わずかに2軒ほど住人の気配を感じるだけで,あとはやはりしーんと静まり返っている。考えたくないが,人も犬も消えたこれが厳しい現実なのかもしれない。

・・・・・・・・・。

そのまま何もないところを15分ほど歩くと,日本海に出た。そこからやや南方に目をやると,いつもは朝日を浴びて輝いていた利尻富士が今日は右手に夕日を従えてしっとりたたずんでいる。頂に雲が正しくかかり,いつもより貫禄を増している。

それにしても,この情景を演出する太陽の赤くて明るいことといったらどうだろう。まるで燃えているようだ。夕日のことを「燃えている」と表現することがよくあるが,それが適切な表現であることを今日初めて知った。

そんな夕日に誘われるように南へ向かう。そうする間にも燃える球体は強力な力でどんどん下に引っ張られていく。そしてついにはどす黒い大地とキスをし,それに飲み込まれ,そのまま後光を残して消えてしまった。地球は自転していると昔教わったが,それが事実であることを今日初めて知った。

すぐ横をトラックが猛スピードで駆け抜ける。ふと我に返り,足を止める。太陽が沈んで夜が訪れようとしていた。太陽が沈んで肌寒くもなってきた。もうこれで抜海駅に引き返そう・・・。そう思って今来た方向へと身を翻した。

と,今度は暗くなり始めた右手上方に月が出ている。あえなく大地に飲み込まれた太陽の仇討ちをせんとばかりに,代わって大地から飛び出してきたらしい。

月は太陽の光を受けて輝いていると教科書は言う。それに異を唱える人はいない。私も異を唱える気はない。唱えるだけの理論も持ち合わせていない。そうなのだけど,何回見てもやっぱり,今この目に映る月は,あんなに真っ赤に燃えていた太陽の光を受けているとは信じられないほど,真っ白に輝いている。


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