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  初田牛(JR北海道・根室本線)

1.駅舎

 

2.根室方面をのぞむ

 

3.駅前通り

 

4.根室方面から迎えにやって来た列車

【駅概略】

JR根室駅から7駅,37.8kmの地点にある無人駅。1面1線のホームと,こじんまりとした待合室がある。駅周辺の線路北側には鉄道林が並んでおり,それを抜けると初田牛の集落がある。昔は多くの農家がこの地で酪農などを営み,小学校も設置されていたが,時代が進むにつれ離農者が続出し,現在はわずか2軒ほどとなっている。初田牛駅も以前は立派な木造駅舎を有し,駅長も常駐して全普通列車が停車していたが,現在は通過するものが多くなっている。

 

【駅データ】

駅名

初田牛(はったうし)

所在地

北海道根室市初田牛
駅周辺の地形図
へ(国土地理院提供)

開業

1920年11月10日(釧路本線として)

乗降客数

駅名のルーツ

オ・ハッタラ・ウシ(川口が淵になっているところ)の音訳といわれる。

 

【停車本数データ】

1925年4月

3往復

1944年12月

4.5往復

1956年12月

4.5往復

1968年12月

6往復

1987年4月

6往復

2006年10月

4.5往復

 

【訪問記】(2006年10月)

根室駅から完全各駅停車タイプの普通列車に乗車。車内で駅弁を食べつつ西進し,初田牛駅で下車した。

初田牛駅には大きな思い入れがある。初めて訪問したのは3年前の夏だった。それまでも田舎の寂しい場所にあるローカルな駅をよく訪問していた私は同じ調子でこの初田牛駅にもやって来たのだが,初田牛駅で見たものはそれまでの諸駅とは明らかに違っていた。

まず,現在も使われている線路の南側には錆び付いた側線(あるいは交換設備)のようなものが残っている。そしてさらにその南側にはだだっ広い草地が広がっている。一方,駅北側の鉄道林を抜けると初田牛の集落があるが,民家は片手で数えられるほどしかなく,あとは無人の更地が広がっている。廃校となり草地と化した初田牛小学校の跡地もある。ありとあらゆるものがこの地の過去の繁栄とその後の没落を示していた。

どんな無名の地でも,あるいはどんなにローカルな駅であっても,それぞれにこれまで歩んできた壮大な歴史がある。いまやあまりに寂しい土地に成り果て,あるいはあまりに侘しい駅に成り果てていても,多くの人々が生活し往来して賑わった過去があり,それを今のように寂れさせてしまった時代背景がある。それを無視して現状だけを概観し,もってその地や駅を語るのは失礼にあたるし,その地や駅を真に理解したことにはならない。鉄道関連物にしか興味がなく,とにかく辺鄙なところにあるとだけ聞いてのこのこやってきた当時の私は,この初田牛の地と駅に大いに衝撃を受けた。と同時に,初田牛の地と駅に戒められたような気がして,大いに恐縮もした。そして,以後は鉄道そのものよりも周囲の状況やその地が歩んできた歴史のほうに興味を向けるようになった。いわば現在の私の活動のきっかけを与えてくれたのがこの初田牛なのである。

そんな初田牛に感謝し,あれから改心したことを報告しに今回はやって来た。そんなこと知ってか知らずか,初田牛のほうは無言で私を迎え入れ,飾らないありのままの姿を私に見せてくれる。

○現在も使われている線路の南側に残る錆び付いた側線(あるいは交換設備)の跡。

○さらにその南側に広がるだだっ広い草地。昔は貨物なども取り扱っていたのだろうか。

○わずか2軒ほどしか人家の見当たらない駅前の初田牛集落。建物のない区画は枯れ草の生い茂る無人の更地となっている。1978年に撮影された空中写真では今よりもっと多くの建物が見えるが,皆この地を離れ,更地と化したと思われる。

○いまや使うことはほとんどないと思われる公民館初田牛分館と,いまや見る人はほとんどいないと思われる「開基百年之碑」。

○その横にある,廃校となりパターゴルフ場と化した初田牛小学校跡地。空中写真では校舎と校庭のようなものが見えるが,いまや学校の面影は全くなく,ここがそうだと知らなければまず分からなくなっている。

○注連縄(しめなわ)の切れた神社の鳥居。神社ですらもはや手入れされることなく放置されているらしい。

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心なしか,前回よりもさらに寂しさと侘しさが増した気がする。何かもう目も当てられない気分になってきた。何かもう見てはいけないものを見ている気分にもなってきた。しかし,これは映画のスクリーンの中ではなく,現実世界で起こっていることである。目を背けるわけにはいかない。

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時間の許す限り,私は初田牛の集落内を歩き続けた。そうするうちに迎えの列車の時刻となり,重苦しい心を引きずりつつ初田牛駅のホームに戻る。いつの日にかもし大切なものを忘れてしまったら,あるいは何が大切なのか分からなくなってしまったら,またここに来よう・・・。そう誓いながら迎えの列車に乗り込み,初田牛をあとにした。


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