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  飯浦(JR西日本・山陰本線)

1.駅舎

 

2.東萩方面をのぞむ

 

3.飯浦の町並み

 

4.益田方面から迎えにやって来た列車

【駅概略】

JR山陰本線の益田駅から東萩方面へ2駅,13.5kmの地点にある無人駅。飯浦の集落はずれの高台に,1面1線のホームと駅舎がある。2006年10月に公開された映画「旅の贈りもの 0:00発」のロケ地となり,終着の「風町駅」として登場した。そのときに使われた駅名標が今も駅舎の中にしまってある。

 

【駅データ】

駅名

飯浦(いいのうら)

所在地

島根県益田市飯浦町
駅周辺の地形図
へ(国土地理院提供)

開業

1927年6月19日

乗降客数

駅名のルーツ

イイとは共同作業をいうユイから出たもの。

 

【停車本数データ】

1930年10月

6.5往復

1944年12月

7往復

1956年12月

7往復

1968年12月

10往復

1987年4月

9往復

2006年11月

9往復

 

【訪問記】(2006年11月)

益田駅から山陰本線の下り普通列車に乗車。戸田小浜駅を過ぎ,15分ほどで飯浦駅に到着した。

同行者とともにホームに降り立つ。ホームは集落はずれの高台にあり,飯浦の町並みとその後ろに広がる日本海を見渡すことができる。眼下に建ち並ぶ家々の屋根には,どれも赤茶色の石州瓦がのっている。遠路はるばる石見国まで来たんだなぁという感慨を強くした。

駅舎を眺める。おそらくは開業当時からのものと思われる味わい深い駅舎である。先ほどのホームからの眺めといい,この駅舎といい,映画のワンシーンに出てきそうなたたずまいである。

鍵のかかった駅務室を外から覗き込んでみる。と,「風町」と書かれた駅名標がしまってあるのが目に留まった。おや,と思う。後で調べてみると,本当にここは映画のロケ地になったことを知った。

飯浦の町中へ散策に出る。2万5千分1地形図によると,飯浦には鉄道駅だけでなく学校や郵便局,漁港などが一通り揃っている。駅から駅前通りを北上し,日本海へと向かう。飯浦漁港を目指すべく,その突き当りを左に折れた瞬間,言葉を失った。

・・・・・・,・・・・・・・・・!

道の両脇に広がる町並みが古びていてあまりに味わい深かったからだ。「古い町並み」をうたう観光地は各地に多いが,よく見ると「わざと作られた古さ」が混じっていることが非常に多い。木材を使っていかにも古げに見えるように最近作った建物が多分に混じっているのを見るにつけ,これのどこが「古い町並み」なんだろうと首をかしげることがよくある。だけど,そんなところでも観光客は各地からわんさか訪れ,疑問を持つ人はほとんどいない。

一方で,この飯浦の町並みといったらどうだろう。「作られた感」は全くない。見るからにあるがまま,なすがままに任せてできた古い町並みである。ここに観光客が来ることはまずないだろうけど,本当はこういう町にこそ来る価値があり見る価値があるように思われる。「古い町並み」の一件に限らず,最近の日本は「ホンモノっぽいニセモノ」と「純然たるホンモノ」との区別がつかず,むしろ前者のほうに価値を認めてしまっているような気がする。

・・・・・・・・・といった趣旨のことを同行者に高々と講釈してすっかり満足した私は,飯浦漁港を一通り見回したあと,さらに道を真っ直ぐ進んでその先にある「大谷」という集落まで行こうと提案した。地形図によると,その「大谷」の集落は山中に開けた小さな盆地のようなところにあり,わずかな水田とともに建物が2軒あるようだ。昔はもっとたくさんの民家があったのに,そのほとんどが離村してしまったために現在のような状況になってしまったのではないか。何となくそんな気がして,是が非でも一瞥したくなり,降り始めた雨を口実にしぶる同行者を言いくるめて意気揚々と向かうことにした。

坂道を上がって到着した「大谷」の集落には,地形図にあるように建物が2軒しか見当たらなかった。そのうちの1軒は農業用倉庫のようなものなので,実質的に民家は1軒のみということになる。そしてその前の斜面に広がるは,一枚一枚が極端に小さくて極端にいびつな形をした棚田である。見るからに耕作に手間のかかりそうな,見ているだけでしんどくなるような,そんな棚田である。案の定というかすでに耕作放棄されたらしく,斜面下方側の石垣は崩れかけ,田面は凝り固まっていた。

・・・・・・。

いま来た道を引き返し,「大谷」から「飯浦」の集落に戻る。約30分ぶりに見る飯浦の町並みである。そこには30分前と変わらず,地元の人々の飾らない暮らしぶりが随所に垣間見えた。が,しかし,どうしたわけか,それが30分前よりさらに滋味を増していて,それでいてこの上なく愛おしいことのように感じられた。


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