ホーム > 秘境駅の情景 > 坪尻

  坪尻(JR四国・土讃線)

1.駅舎

 

2.スイッチバック(阿波池田方面をのぞむ)

 

3.坪尻駅を通過する特急列車

 

4.迎えに来た列車(阿波池田方面をのぞむ)

【駅概略】

JR土讃線の琴平駅から南へ4駅目,20.8kmの地点にある無人駅。土讃線を南下し,香川・徳島両県境を貫く猪ノ鼻トンネルを出てすぐの険しい山中にある。もともと信号場として設置され,急勾配のためスイッチバック式となっている。駅から線路を横切って山道を上がっていくと国道32号線に出,坪尻駅を俯瞰できる。特急列車はもちろんのこと,普通列車でも通過するものがある。

 

【駅データ】

駅名

坪尻(つぼじり)

所在地

徳島県三好市池田町西山立谷
駅周辺の地形図へ(国土地理院提供)

開業

1950年1月10日

乗降客数

駅名のルーツ

ツボジリとは窪地のことで,山あいの谷底にあるこの地の地形をいう。

 

【停車本数データ】

1950年10月

下り5本,上り7本

1956年12月

7往復

1968年12月

10往復

1987年4月

8.5往復

2007年10月

下り8本,上り6本

 

【訪問記】(2007年7月)

所用で阿波池田に向かう途中,坪尻駅で途中下車してみた。5年前の年末以来,2度目の訪問である。

列車(キハ65)を降り,まずは駅前広場に出てみる(写真1)。ものの見事に雑草に覆われている。ものすごい状況で「荒れ果てている」の一言に尽きるが,不思議なものでずっと突っ立っているとこれはこれで綺麗なようにも見えてくる。

一面の雑草の中に伸びる一条の道をたどり,線路を踏切で横切ってみる。・・・と,そこには不気味な廃屋と打ち捨てられたバイクがあった。この廃屋は駅前商店の跡らしい。こんなところに店を構えようとした主人がちょっとおかしな人物だったのか,あるいは昔は多くの駅利用客がいて収益が見込めたのか。おそらくは後者だろうと思う。

そのまま小道を進み,やがて山道となり,それでも構わず突き進んでみる。これがまぁまた酷い道である。倒木がところ構わず横たわる。両側から生い茂る雑草が我が行く手を阻む。無駄に色鮮やかなトカゲがさっと目の前を駆け抜ける。クモの巣が容赦なく頭に引っかかる。ヘビが体をくねらせて脇の雑草を「ガサッ」とやる。よく言えば自然あふれる,野性味あふれる楽しい道だが,冷静に考えれば日常的な利用・通行がないことを如実に物語っているだけであって,通行はお勧めできない。

15分ほどかかってこの酷道を登りつめ,国道32号線に出てみる。頻繁に行き交う車の排気ガスにまみれながらちょっとだけ阿波池田方面に行くと,廃レストラン「阿讃」がある。5年前に来たときにその敷地内から坪尻駅が俯瞰できることを確認したのだが,夏の盛りのいまは大きく広がった木々の枝葉が邪魔して見えなくなっている。どこか俯瞰できるポイントはないものか・・・。周囲を見回すと,国道より斜面上方に集落(後で調べると,「落」というらしい)があって,集落に通じる道がついている。あの道を行けばどこかからは俯瞰できそうだ・・・。

そう思って,急いでその道を行ってみる。と,確かにうまい具合に木々に邪魔されずに坪尻駅を見下ろせる場所を見つけた。これまたうまい具合にもうすぐ特急列車が通過する時刻である。傍から見れば,特に地元の方から見れば完全に「変な人」だが,5分ほどそこにとどまって,通過する特急列車をうまい具合に収めることができた(写真3)。

特急通過後もなおそこにとどまり,坪尻駅全体をぼーっと眺めてみる。山に囲まれた谷底に沈むように駅がある。「坪尻」の名もそういう意であるという。水を注ぎ込めば簡単に水没してしまいそうだ。本当にここしかないという場所に駅を造りスイッチバックを造り,客を乗降させ列車を交換していることが実感できて,頭にかすかにこびりついたクモの巣のことも忘れて先人の偉業に感じ入った。

酷道を下り,駅に戻って,ホームで迎えの列車を待ってみる。・・・と,特急列車が琴平方面に向けて結構なスピードで駆け抜けていった。一瞬,乗客と目が合ったような気がする。こんな駅で暇そうにたたずむ私の姿は,忙しく特急列車で移動する乗客の目にどう映っただろうか。気にはなるが,どうせ「あぁ,あれが噂には聞く鉄の道の人だな」と思われて終わったろうと思う。

さらにホームでたたずんでみる。・・・と,迎えの列車がトンネルからひょいと顔を出し,そのまま目の前の本線をゆっくり通過し,阿波池田側の引込線に入り,いったんピタッと停車し,やがて逆走し始め,最終的に私の目の前で停車した。扉が開き,客もまばらな車内に乗り込む。と,やがて扉が閉まり,阿波池田に向けて山を下り始めた。さて,そろそろ俗世間に戻って,所用をこなすことにしよう。


ホーム > 秘境駅の情景 > 坪尻