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  半家(JR四国・予土線)

1.ホーム(江川崎方面をのぞむ)

 

2.中半家沈下橋

 

3.駅遠景(窪川行き普通列車が停車中)

 

4.長生沈下橋

 

5.窪川方面から迎えにやって来た普通列車

【駅概略】

JR江川崎駅から窪川方面へ1駅,3.8kmの地点にある無人駅。「ハゲ」と読む。山あいを蛇行しながら流れる四万十川に沿ってわずかに開けた半家の集落をのぞむ高台にあり,駅前を通る国道381号線からホームまでは階段を上ることになる。難読&珍駅名として有名。

 

【駅データ】

駅名

半家(はげ)

所在地

高知県四万十市西土佐半家
駅周辺の地形図
へ(国土地理院提供)

開業

1974年3月1日

乗降客数

駅名のルーツ

平家の落人がこの地に逃れ,「平」の字の上の「一」を下に移して「半家」としたという説もあるが,「ハゲ」は崖のことである。このあたりの山は峻険な崖状になっている。

 

【停車本数データ】

1979年8月

6往復

1987年4月

8往復

2008年7月

7往復

 

【訪問記】(2008年7月)

平安時代中期に承平・天慶の乱を起こしたうちの一人・藤原純友が根拠地にしていたという愛媛県・日振島を訪れるべく,高知から特急「あしずり」に乗車。陰影に富む車窓を楽しみながら,1時間ほど揺られて窪川で下車。接続する予土線の普通列車に乗り換え,宇和島に向かう。

この列車にはトロッコ車両が連結されている。予土線は四万十川沿いの景色のいいところを走るので,1日1往復,普通車両の後ろにトロッコ車両を連結して走っているのだ。・・・が,誰も乗っていない。そんなに不人気なのかと残念がっていると,「トロッコ車両に乗車できるのは途中の土佐大正駅から」との車内放送。トロッコ指定券を持っている人も,今は1両目の普通車に収まっているようだ。

定刻に発車した列車は,若井駅を過ぎて土佐くろしお鉄道をループ線で南に見送ると,四万十川に沿って走り始めた。比較的最近開通した区間なので,線路の敷き方は新幹線的で,地形にあまり左右されない。極端に蛇行する四万十川にはあっさり愛想を尽かしてトンネルに入ったりするから,ローカル線とは思えないほどのスピードで突っ走る。22kmをおよそ30分で快走し,土佐大正駅に到着した。

・・・と,ホームに黒山の人だかりができている。「あんなにたくさん乗れるのか」と心配するまでもなく,全員が後ろのトロッコ車両に収まった。団体旅行客がここまで観光バスでやって来て,トロッコに乗車できる土佐大正−江川崎間だけ鉄道を利用するようだ。1両目の普通車から乗り移った人も含めて,空っぽだったトロッコ車両は一気に満員になった。

ここから列車は四万十川の絶景を楽しんでもらうべく,一気にスピードを落とす。ここも先ほどと同じく比較的最近できた区間なので,もっとスピードを出せるはずだが,旧態依然の典型的ローカル線よりもスピードは遅い。日々利用していて先を急ぐ地元客にとっては迷惑な鈍足も,観光客にとっては非常にありがたい。私も存分に景色を楽しんだ。

土佐大正駅から3つ目の半家駅に到着。フリーきっぷを見せて下車する(写真1)。後ろのトロッコに乗っているチビッコが,駅名標だか私だかを指さして,「あっ,ハゲだハゲだ」と騒いでいる。列車が出ていくと,もとの静かなローカル駅に戻った。

私がこの駅で下りたのは,沈下橋を渡ってみたかったからだ。沈下橋というのは,洪水を引き起こさないよう,また流されても容易に再建できるよう,欄干をなくして桁の位置を低くし,増水時には水中に「沈下」するように造られた簡易な橋のことで,四万十川には47もあるという。列車から眺めるだけでも四万十川は十分楽しめるけれど,やっぱりもっと間近に触れてみたい。予土線の駅から歩いて行けて,雰囲気の良さそうな沈下橋を探した結果,半家駅で下車と相成った。

ホームから続く階段を下り,駅前を通る国道381号線を北に向かう。予土線の立派な橋梁をくぐると,中半家沈下橋が現れた。絵に描いたような理想的なロケーションにある理想的な沈下橋で,思わず見惚れてしまう(写真2)。国道から続く連絡道をつたって,沈下橋の目の前まで来てみる。「日本最後の清流」と言われるだけあって,流れる水も心なしか澄んでいて清々しい。途中で何回も立ち止まっては流れを見つめ,焦らず慌てず,のんびりゆっくり沈下橋を右岸から左岸側へと渡った。

そこから,そのまま左岸側を通る細い道を南下していく。やがて木々の合間から,対岸に半家の集落が見えてきた。四万十川の河道から続く急な斜面の中腹やや下あたりに,へばりつくようにしてほぼ一直線に家々が並んでいる(写真3)。「半家」とはおもしろい地名で,その由来には平家の落人が云々というのがあるけれど(上記「駅名のルーツ」参照),こうして現地に来て眺めてみるにつけ,ここはやはり急峻な崖・崩壊地を意味する「ハゲ」から来ていると考えたい。

半家の集落の上辺をかすめるように走る予土線の路盤が見えている。・・・・・・と,左のほうから列車がやって来て,集落の上辺ほぼ中央で止まった。学生が2人,階段を下りていくのが見える(写真3)。ただそれだけのことだけど,ローカル線のローカル駅がその職責を果たしている貴重な瞬間に立ち会っているような気がしてきて,しばらくその場で立ち止まって見惚れた。

再び歩き出す。四万十の流れにあわせて左に緩やかにカーブすると,長生の集落に出た。そこに長生沈下橋が架かっている(写真4)。先の中半家沈下橋と同じく,途中で何回も立ち止まっては四万十の流れを見つめ,焦らず慌てず,のんびりゆっくり沈下橋を渡る。その間に,計3台の車が沈下橋を通過していった。地図を見ると,この辺りには普通の橋が架かっておらず,対岸を走る国道から長生の集落に入るには沈下橋を渡るのが最短ルートとなる。沈下橋は桁が低いのでちょっと増水すれば通れなくなるし,そうでなくても欄干がないのでうっかり転落しそうになるが,そんな見るからに頼りない沈下橋でも地元の方々にとっては重要な生活道路になっているようだ。沈下橋がもの珍しくて,好奇心だけでやって来た私は,のんびりゆっくり沈下橋を渡っているのが地元の方々の日常を邪魔しているような気がしてきた。何となくここに居づらくなった私は,にわかに歩を速め,迎えの列車のやって来る半家駅へと急いで向かって行った。


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