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  姨捨(JR東日本・篠ノ井線)

1.ホーム

 

2.スイッチバック(右が姨捨駅,左が本線)

 

3.ホームからの眺め

 

4.姨捨の棚田

【駅概略】

JR篠ノ井駅から篠ノ井線を2駅,12.5kmの地点にある無人駅。木造の駅舎と,2面2線のホームがある。急勾配が続く区間の途中にあり,X型スイッチバックとなっている。駅から見渡せる善光寺平の雄大な景色は,狩勝峠、矢岳越えと並んで日本三大車窓の一つに数えられている。

 

【駅データ】

駅名

姨捨(おばすて)

所在地

長野県千曲市八幡
駅周辺の地形図
へ(国土地理院提供)

開業

1900年11月1日

乗降客数

駅名のルーツ

冠着山の別名が姨捨山。「今昔物語」に出てくる老母を捨てた伝説による。

 

【停車本数データ】

1925年4月

8往復

1944年12月

8.5往復

1956年12月

8往復

1968年12月

9往復

1987年4月

11往復

2010年3月

18往復

 

【訪問記】(2010年3月)

新幹線で長野に到着。松本行きの普通列車に乗り換える。乗り込んですぐに発車した列車は,篠ノ井駅から篠ノ井線に入り,稲荷山駅を過ぎると,徐々に高度を上げ始めた。

・・・と,ふと,列車が駅でもないところで急に停まり,かと思うと,今度は後ろ向けに走り始めた。「何事か!?」と普通なら慌てふためきそうだけど,車内はいたって平穏である。かく言う自分も,「そろそろ到着だな」と思うのみで,平然としている。

少しだけ逆走した普通列車は,やがて駅のホーム(写真1)に滑り込んだ。姨捨駅に到着である。私を降ろした列車は,しばらく停車した後,また逆向けに(いま来たほうに向けて前向きに)走り去っていった。そう,姨捨駅はX型のスイッチバック構造を持った駅なのだ。ホームのすぐ下には,今通ってきたばかりの本線が見えている(写真2)。

ホームに取り残される。・・・と同時に,目の前に広がる景色に圧倒される(写真3)。ここは,北海道の狩勝峠,九州の矢岳越えと並んで,日本三大車窓の一つに数えられるほど雄大な景色が楽しめるところなのだ。今日は快晴で,かなたに見える飯綱山が雪を頂いてすがすがしい。

景色は後でもう一度楽しむとして,駅舎に向かう。駅舎の横に,姨捨伝説について解説した案内板がある。「姨捨」という強烈な駅名は,この地に残る姨捨伝説から来ているようだ。読むと,

――老人の大嫌いな殿様が,「70歳を超えた老人は山に捨てよ」とお触れを出したが,ある若者がこれに背いて老母を自宅にかくまった。そんな折,隣国から持ちかけられた無理難題を,その老母の知恵により解決できたことから,老人を大切にすることの大切さを殿様は思い知った。――

というお話らしい。自分が何となく知っているつもりになっていた姨捨伝説とは内容が異なるが,こちらのほうが正しいのだろう。これを読んで時間をつぶす。

・・・と,さっき列車が去って行った方角から,同じデザインの普通列車がこちらに向かってやって来た。やがて目の前のホームに停車し,扉が開く。七,八人の下車客の中に,見慣れた男が混じっている。関西からやって来た今回の旅の同行者である。姨捨駅現地集合というミッションはこれで完了した。

同行者が到着したところで,再び善光寺平の絶景に見とれる。まだまだ快晴で,眼下に一望できる川中島が武田信玄と上杉謙信の名勝負を思い起こさせる。

駅周辺の散歩に出る。まずはX型スイッチバックの”X”の交点に向かう。うまい具合に歩行者専用の小さな踏切があり,長野方面からやって来る普通列車や折り返して姨捨駅に入る列車や松本方面に向けて出ていく列車やそれらの逆パターンの列車や本線を通過する特急列車や貨物列車が目の前を通過して行く。ここに立って眺めていると,あまりに近くて恐怖感を覚えるほどだ。松本方面からやって来た「ワイドビューしなの9号」は,我々に警笛を鳴らして走り去った。

坂道を下ると,長楽寺というお寺がある。そこに「姨岩」という巨大な岩がある。その名前からして先の姨捨伝説と関係ありそうだが,伝説の中に岩は特段出てこない。コノハナサクヤヒメとオオヤマヒメにまつわる全く別の伝承に関する史跡だという話や,先の伝説で姨を捨てた姨捨山がこの姨岩だという言い伝えなどがあるようで,いまいちはっきりしない。

寺を出て,その東側に広がる棚田を散策する(写真4)。姨捨駅から眼下に見えていた斜面に,小面積の水田がびっしり並んでいる。今は3月なので,どの区画もまだ田起こしが終わった段階だが,田に水が張られる時期になると水田の一枚一枚に月が映り,まさしく「田毎の月」状態になるという(ただし,現実には起こり得ない現象だと思われる)。

駅に比べるとやや標高が落ちたものの,まだまだ眺めは良い。こんなところで農作業できるなんてさぞかし気分がいいだろうなと思う。けれど,現実には不便なことの連続だろうと思う。旅行者はいつも勝手気ままでのんきなもんだと自分を見て思う。

一通り散策を終えて駅に戻る。ホームに立って,みたび善光寺平の雄大な景色を一望する。相変わらずの快晴で,眼下に広がる長野市街が箱庭のようだ。

・・・やがて箱庭の中からひょっこり姿を現した白と水色の模型列車が,いつの間にか現実の大きさの普通列車となって,我々を松本方面へと連れて行った。


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